日本の旅行業界の現状と問題点考察

観光業界もコロナ禍からいよいよ復興期に差し掛かってきましたが、随分とこの業界で働く人たちと利用者の感覚のずれが鮮明になっているのをこの3年間見てきましたので、一度利用者の方々に自分たちが利用しているサービスがどのようにして成り立っているのかを知って頂くと共に、サービスの提供者側も自分たちの業界をどうやったら良くしていけるのか考えて貰えるきっかけになればと、自分なりに感じた点を挙げて考えてみようと思います。

目次

旅行業の給与水準

基本規模の大きい大手が高い給与水準だと思われがちですが、親会社の支援で安く仕入れが出来たり競争無しにグループ会社の仕事が回して貰えるハウスエージェントと云われる系列旅行会社が結構いい給料をもらっている場合も多いので、一概には言えませんが目安としてはサービス業の代表的な労働組合全体で目指しているのが『35歳で年収550万円』でしょうか。

観光業に携わる多くの企業がこの目標値に届いていない訳で、他業種と比べると低めの水準であることがお判り頂けるのではないでしょうか。

私が学生時代に旅行業界の就職活動をしていた石器時代(笑)には、供与水準としては航空系>JTB>阪急交通社>後は規模順って感じでした。

※航空系は当時は旅行部門以外も社内に抱えてて旅行業界の給与水準より相当高かったんですが、現在はおそらくJTBより高いってことは無いんじゃないかと推察します。

クレームの種類

旅行業界で多いのは、海外旅行でいざ事故が発生してから旅行傷害保険に入っていない人が、旅行会社に補償を求めてくる場合です。

海外旅行でお金をケチってはいけないんですが、未だに数千円程度のお金でもケチる人が多いのが実情です。特にクレジットカードで付帯してる保険だけで大丈夫って思ってる人も未だに多いんですけど、上限金額が足りず大きな自己負担をしなければいけないケースも出てきますので、行先の医療費の実勢価格くらいは今どきネットでちょこっと調べればある程度分かりますので、しっかりと保険を掛けて出かけることをお勧めします。

それ以外では、思ってたのと実際行ってみたら違ってたって場合か、業務知識が不足している担当者が説明不足でお客様に迷惑を掛けたり、手配ミスや宿泊先や体験・食事施設での対応の悪さなどでしょうか。

部品点数が多い機械ほど故障が発生しやすいのとおんなじで、手配箇所が多ければミスや対応の悪さが発生することも多くなります。又、お客さん側で変更を何度も申し出たり、間際での変更などで手配した施設との行き違いや施設側のミスも起こりやすくなるので、間際での変更は極力避けた方が無難でしょう。

旅行業界の分類別展望

大きくは会社のサイズというより自社で新たなサービスを開発したり、新たな分野へ出て行く気概を持った企業と、それが出来ない既存の旅行のみに収益を頼る旅行会社で分けて解説します。

大手~準大手の一部と専門特化型

業界を代表する大手・準大手数社とスポーツや宗教など得意分野に特化した旅行会社に絞られますが、これらの企業は自社で新たな収益源を探し求めて、常に他社を引き離して競争の少ない分野への投資と開発を行う事でコロナ禍も逞しく生き抜いています。

最近話題になったところでは、近畿日本ツーリストのPTA業務の請負いや学校の一部業務の委託事業への進出なんかがこれです。

他にもJTBデータコネクトHUBなんかも、他社がやってない業務管理システムを宿側へ提供していくサービスで、独自性の高いものになりますね。

これら大手以外でも、それこそ中小でも出来る仕事を見つけ受注して大手を凌ぐ利益をあげている企業もありますので、要はチャレンジしてみてやれるかどうか判断するってことが実はとっても大切な事です。

大手や準大手、中堅旅行会社は、コロナ禍で自治体などの委託業務を積極的に受注しに行くことで、今までやったことの無い業務を手探りながらもやっていくことで、それまで派遣会社のや広告会社などがやっていた仕事が、実際には自分達でも出来る事に気づいて新たな収益源とする事で進化を遂げています。

自社で新たな市場を掘り起こしたり、特許を取って新たな市場を開拓したりている企業は2022年になって業績は自力で回復しつつありますので、これらの企業がこれからの旅行業界をけん引して行くことになるでしょう。

航空系と中堅~中小

航空系の旅行会社は残念ながら売り上げでは大手の一角を占めていますが、コロナ禍では何もできず只親会社の元嵐が過ぎ去るのを待つだけでした。

空港や航空会社の予約やチェックインシステム、セキュリティ対策、入国管理ののノウハウを活かせば、コロナワクチンの接種事業の受託に一番適していたにも関わらず、こういった事業に及び腰で「やったことが無いから手を出さない」ことで、専業の旅行会社に全て持っていかれてしまったのは、最後は親会社の航空会社は国や自治体、銀行、大株主が助けてくれるという感覚と、旅行専業の企業の後が無いっていう危機感の差なんでしょう。

そして、大手のパッケージを売って手数料を貰うスタイルの昭和以来収益構造が変わらない小規模業者や、大手から退職して自分の持ってた団体を持ってっただけの旅行会社もやはり、存在価値を示せず只雇用調整助成金に頼るばかりでじり貧です。

「大手だけが美味しい思いをしてる!」「他国の様に入国税を取って、それを自分たちに回せ!」なんてことを言う中小企業の代表の方もいますが、大手と云えど無条件で政府から仕事を回してもらっている訳では無いですし、ましてやインバウンドの誘致や増加に貢献していない中小の旅行会社にそれを財源に支援するのは意味不明無理筋ですし、先にも話しましたが、中小でも出来る事業を探してきて受注する事で経営状況を飛躍的に改善した企業も実際に存在しています(2022年度の業績を見れば想像は付くと思います)。

旅行会社に関しては、昭和から日本を支えてきたモノづくり企業と違って、技術の独自性や発展性の無い中小企業が多くを占めており、企業としての存在価値を示すことが出来ない、サプライヤーとカスタマーとの間に入って手数料を貰うだけの、いわゆるブローカー的な企業が多く、今後2024年以降は倒産が一気に増えて行く可能性が高いと私は見ています。

独自性を持たない企業が借金まみれで苦しくなっていく一方で、得意分野の知識を最大限活かしてオトクなチケットをネット販売しながら業績悪化を防いで堅調な経営を保ち続けている企業も少数ながらありました。

特に、JRなどは旅行会社・担当者で業務知識に雲泥の差が出るため、日ごろから販売するチケットの知識を最新にアップデートして、更に販売知識をブラッシュアップしてSNSも駆使しながら新たな販路まで開拓している旅行会社の方も実際におられます。

ランドオペレーター(ツアーオペレーター)

あまり聞きなれない名称かと思いますが、これはアウトバウンドに於いて重要な役割を果たす、海外現地手配を行ってくれる会社の事です。

大手旅行会社の子会社も含め、各方面ごとにランド(ツアー)オペレーターが存在していて、大半の旅行会社はその地域のランドオペレーターにホテルやバス、食事や観光などの手配を任せることになります。

最大手のJTBや海外2位のHISでさえ、全ての国に支店があって手配を出来る訳では無く、こういったランドオペレーターさんは無くてはならない海外を取り扱う旅行会社の大切なパートナーさんです。

今後海外旅行が本格再開した際には、大手の海外支店が相当数閉鎖されたことと相まって、ランドオペレーターの重要度は更に高まっていきますので、コロナ禍で一番影響を受けた業種ではありますが、一刻も早い回復を祈るばかりです。

実際、日本の海外旅行売上高上位5社でも、海外の在外旗艦支店の一つであったハワイ支店でさえ閉鎖対象となってしまって、ランドオペレーターの事務所に電話機を一つ置いてもらって「○○旅行です」って電話に出てもらう委託みたいな形で、対外的に形式上ハワイ支店があるだけの大手旅行会社や、移転縮小した大手旅行会社、航空会社もあります。

もはや結構な国に於いて大手旅行会社の海外支店が、こういったランドオペレーターへの委託支店となっていて、実質的に支店機能は殆ど無くなったエリアも増えていますので、緊急支援体制も貧弱にならざるを得ないのが実情です。

消費者サイドとの認識のずれ

コロナ禍直前に旅行相談料をJTBが一時一部の店舗で導入しましたが、やはり相談だけでお金を取られる(旅行を申し込めば旅行代の一部として扱われました)のが、消費者には抵抗感があり全店通年導入を断念。

旅行相談にかかる手間は人件費がかかっているのは間違いないんですけど結局、申し込みが無ければ只で旅行のアドバイスをするだけになってしまいますから、業界側としては当然頂きたい相談料でもお客さんが来なくちゃどうにもなりませんから仕方ありませんね。

もはや単純な宿泊や交通の手配はネットで出来る時代になってますんで、これからは各施設のHPやOTA(オンライントラベルエージェント)のサイトで申し込むのが主流になるのは避けられません。人間が対面で相談を受けるのは人件費などの費用効率的に無駄が多すぎますからね。

まとめ~これからの旅行業~

コロナ禍では1年目は全ての旅行が消え失せ、2年目以降の大半の団体旅行が戻ってきていない中、減ったものの国内の旅行と出張を上手く掬すくい取っていた旅行会社が比較的コロナ禍の傷を浅く抑えることが出来ました。

今後、先ずは国内需要が復活していく中では、コロナ禍で営業活動がストップしていた企業と継続していた企業で回復度に差が出ることになりますが、人が面倒でやりたがらない仕事を上手く収益に結びつけて受注していく企業がコロナ禍からの復活を遂げて行くことになるでしょう。

MaaSと云われる複数の移動サービスを1パックにまとめる試みも大手旅行会社や航空会社などがコロナ禍の少し前から取り組みを始めていましたが、これも加速していくでしょう。

コロナ禍でリモートワークも定着してきましたし、日本は人口減、更に出張需要も今後最盛期までは増えることは無さそうです。

個人旅行や出張需要はOTAやホテル・運送業者のサイト、団体やイベントはそれらを取り扱うノウハウを持った旅行会社が担っていくことで、これからの10年で特徴の無い旅行会社は仕事は減る一方で一気に淘汰されて行くことになるでしょう。

個人で出来るレベルのものを仕事にして食べて行く時代は過ぎ去ろうとしているのをひしひしと感じながら、日々新たな仕事を模索しているのが旅行業界の現状です。

業界目線での記事は他にはこちらになります。

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この記事を書いた人

一匹旅で各地を転々とする旅ねこです。
勤めネコですが、仕事を含め国内、海外を問わずグルメや温泉をとことん満喫し、旅の出会いを楽しんでいます。若かりし頃情熱を燃やしたアイスホッケーを今も愛しており、アメリカ・カナダに行った際には必ずNHLを観戦しています。
I am travel cat . I am a cat who loves delicious food and hot springs.
I still love passionate ice hockey when I was young, and I always watch NHL when I go to the United States and Canada.

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